法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会が7月22日に開いた第16回会議の議事録が公表された。事務当局は、株主提案権の行使要件のうち「議決権300個以上」の要件の廃止と、株主による株主総会の招集請求権の保有要件の3%以上から5%以上への引上げを、問題提起した。いずれも要綱案の取りまとめ前の検討段階で、決定ではない。

何が起きたか
- 事務当局は、部会資料14「要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」で、中間試案に寄せられたパブリックコメントを踏まえ、株主総会のデジタル化、「会議体」としての株主総会の規律、株主提案権などの見直し案を示した。
- デジタル化では、株主総会資料の電子提供制度で株主が書面での交付を求められる「書面交付請求制度」を、移行期間を置いて廃止する案(中間試案のA案)を提案した。書面による議決権行使の機会を設ける義務を見直す案も、同じくA案による。
- 会議体の規律では、事前の議決権行使で可決要件を満たした議案について、株主総会の決議があったものとみなす制度の案を示した。取締役の説明義務は残す。総株主の議決権の10分の1以上の株主が反対を通知すれば、みなし決議とはしない案も併せて意見を求めた。
- 株主提案権の議決権数の要件(300個以上)の廃止と、招集請求権の要件の引上げは、問題提起として示した。招集請求権の引上げは、中間試案には含まれていなかった項目である。
ポイント
見直し案を、従前の制度、変更の内容、会社と株主への影響の順に整理する。
株主提案権。取締役会設置会社の株主は現在、総株主の議決権の1%以上、または300個以上の議決権を保有していれば、提案できる。事務当局は、このうち300個以上の要件を廃止し、1%以上の要件に一本化する案を示した。部会資料14によれば、2026年6月末時点の東証プライム市場の投資単位の中央値は22万4,400円で、300個の保有に要する金額は約6,700万円となる。同市場の時価総額の中央値の1%は約12.6億円で、要件を廃止すると、中央値の会社では必要な保有額が約19倍になる計算である。時価総額の大きな会社ほど、個人株主や小規模な機関投資家の単独の提案は難しくなる。事務当局は、社外取締役が取締役会の過半数を占める会社に限って廃止する考え方も、検討対象として示している。議事録では、個人株主や小規模な機関投資家の提案が大規模な会社で事実上できなくなるとして、慎重な検討を求める意見が出た。1%を引き下げる案や、金額基準を設ける案も挙がった。
招集請求権。株主は現在、総株主の議決権の3%以上を6か月以上保有していれば、株主総会の招集を請求できる。事務当局は、これを5%以上に引き上げる案を示した。資料は、英国、ドイツ、フランスでは5%以上の株主に認められ、米国のデラウェア州では定款で定められた者に限られると整理する。引上げの背景には、短期的な利益を追求する一部の株主の請求で経営が攪乱される事案が増えているとの指摘がある。議事録では、引上げ自体は選択肢になり得るとする意見や、大量保有報告書の提出基準である5%と同水準にすべきだとする意見が出た。一方で、提案の趣旨に短期的利益の追求による経営の撹乱への言及がある点は適切でないとの指摘もあった。
デジタル化と決議の合理化。書面交付請求制度は、利用率が低水準にとどまる一方、会社が書面の準備に備えるコストを最終的に株主全体が負担している。事務当局は、これらを理由に廃止を提案し、移行期間は2〜3年程度が適切だとする。書面による議決権行使は、現在、株主が1,000人以上の会社に機会の提供が義務づけられている。見直し案は、書面または電磁的方法のいずれかを定めれば足りるとする内容である。みなし決議は、上場会社の総会で、事前の議決権行使により決議の成立が事実上確定していても、当日の議事運営次第で決議取消事由が生じ得る点への対応である。総会の開催と株主の質問権は維持される。
実務への示唆
提案権の入口が1%に一本化されれば、単独で提案できる株主が減る分、1%未満の株主が合算して提案する形の重みが増す。総会の運営は、デジタルと事前の議決権行使を前提に組み替えられる方向にある。会社にとっては、株主の構成を把握することと、総会の運営の実務を見直すことが、実務上のカギになる。
1. 共同提案の可能性を、株主構成から把握する。 例えば、株主名簿と大量保有報告書の提出者から、1%に近い保有者と機関投資家を整理し、複数の株主が合算して提案する場合の想定を、IRと法務で用意することが考えられる。
2. 事前の議決権行使を前提にした総会運営を見直す。 例えば、みなし決議が導入された場合に備え、定款変更の要否、電子的な議決権行使の手段、取締役の説明義務への対応を整理しておくことが考えられる。
3. 書面交付請求の廃止に備え、株主への周知と連絡先の把握を進める。 例えば、移行期間中の周知計画を作り、株主の電子メールアドレスの把握を、株主名簿管理人や口座管理機関とどう分担するかを、関係部門で議論することが考えられる。
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出典
- 法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会 第16回会議 議事録」(2026年7月22日開催) https://www.moj.go.jp/content/001471475.pdf
- 法務省 法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会「部会資料14 会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」 https://www.moj.go.jp/content/001467056.pdf
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)

