法務省の法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会は8月26日、第17回会議を開き、要綱案の取りまとめに向けた検討を進めた。今回の部会資料には、指名委員会等設置会社の制度見直し、責任限定契約の対象拡大、そして事業報告等と有価証券報告書の一体的開示という、ガバナンス実務に直結する論点が並ぶ。2025年4月から続く審議は要綱案の姿が見えてきた段階にあり、上場会社の機関設計と開示実務の両方に影響する改正として注視が必要だ。
指名委員会の決定を取締役会で「変更可能」とする案
部会資料15が示した見直し案のうち機関設計に関わる中心は、指名委員会等設置会社において、取締役会の過半数を社外取締役が占める場合に限り、指名委員会が決定した取締役選任議案を取締役会決議で変更できるとする案である。変更した場合は株主に通知し、指名委員会には株主総会での意見陳述権を与えることで、最終判断を株主に委ねる設計とされる。社外取締役の増加により、少数の委員による決定が取締役会全体の判断と乖離し得るという問題意識が背景にある。同様の規律を報酬委員会にも及ぼすかは、賛否が分かれている。
このほか、執行役を兼ねる取締役は監査委員会の議事録を閲覧できないとする監査の独立性確保策や、各委員会の委員予定者を株主総会参考書類に記載する透明化策も検討されている。
責任限定契約の拡大と「開示の一体化」
責任限定契約については、現在は社外取締役等に限られる対象を業務執行取締役にも広げる案が示された。取締役が会社と利益相反する状況で会社に損害を与えた場合は対象外とし、グループ会社から受け取る報酬も最低責任限度額の算定に含めるなどの手当てを伴う。経営人材の確保を後押しする狙いがある。
開示面では、有価証券報告書を提出した会社は会社法上の事業報告等の作成を不要とし、金融商品取引法に基づく監査をもって会社法監査を満たしたものとみなす、いわば開示の一体化が検討されている。実現すれば、上場会社が長年抱えてきた事業報告と有報の二重作成・二重監査の負担が解消に向かう大きな転換となる。一体化後の監査期間を現行の4週間のままとするかは、引き続き検討課題とされている。
実務への示唆
- 「開示の一体化」は自社の開示体系再設計の好機として備える:事業報告と有報の統合は、単なる負担減ではなく、株主総会前に何をどの書類で伝えるかを組み直す機会になる。例えば、現在の事業報告・有報・招集通知の記載項目の重複を洗い出し、一体化が実現した場合の総会スケジュールと作成工程を試算しておく──といった準備を始めておくと、法改正への対応が受け身にならずに済む。海外投資家が指摘する開示書類の分散・重複の問題(金融審DWGでのNBIMの分析)とも軌を一にする動きである。
- 指名委員会等設置会社と移行検討中の会社はウォッチを:委員会の決定を取締役会が変更し得る設計は、指名委員会の独立性と取締役会全体の判断のバランスを変える可能性がある。例えば、指名委員会の運営規程や委員構成を見直す際に、この改正動向を前提条件として織り込んでおくことが考えられる。要綱案の取りまとめから国会提出までのスケジュールにも注意しておきたい。
出典
- 法務省「法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会第17回会議(令和8年8月26日開催)」議事次第・部会資料14/15 https://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900001_00341.html
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)

