日本監査役協会の会計委員会は7月28日、「監査役等による会計不正への対応──予兆の早期把握と予防の徹底」を公表した。相次ぐ会計不正を受け、監査役・監査等委員・監査委員が不正の「予兆」を早期に掴むための着眼点と、予防のための体制整備を約30ページに整理した実務文書である。ニデック(東証プライム、6594)やエア・ウォーター(東証プライム・札証、4088)など直近の事案の調査報告書の概要も収録されており、事例と対応策を一体で学べる構成になっている。
6つの「黄色信号」
文書の中核は、会計不正の予兆を6つの観点で整理した点にある。第一に経営トップの誠実性であり、売上拡大や上場達成への極端な執着、不自然な売上の伸長を警戒対象に挙げる。第二に過度な業績プレッシャーで、現場の実態を反映しない達成困難なトップダウン予算を典型例とする。第三に循環取引の兆候で、事業合理性が不透明な取引、特定担当者への権限集中、特定取引先への急激な売上拡大、異常に長い売掛金の回収サイトを列挙する。
さらに、第四に内部統制・ガバナンスの機能不全(取締役会でリスク管理の議題が少ない等)、第五に会計監査人への不適切な対応(外部証憑の提供拒否、取引先への質問制限等)、第六に問題の顕在化を避ける暗黙の風土──と続く。いずれも、財務数値そのものではなく「数字の周辺」に表れるシグナルである点が特徴だ。
内部通報は「親会社主導の統一的な仕組み」を提言
体制整備の面では、内部通報制度についてグループ全体で統一的な仕組みを親会社主導で構築することが望ましいと明示した点が注目される。小規模な子会社では匿名通報でも通報者が特定されやすいという実務課題が理由であり、子会社不祥事の発生時に監査役等へも遅滞なく報告される体制の構築を求めている。2026年12月に施行が迫る改正公益通報者保護法の周知にも触れており、通報体制の総点検を促す内容となっている。
実務への示唆
- 「黄色信号」を自社の監査項目に反映する:6つの予兆は、そのまま監査役等の点検リストの素材になる。例えば、予算策定プロセスの確認、取締役会でリスク・コンプライアンス議題が占める割合の確認、売掛金回収サイトが長い取引の抽出、会計監査人への資料提供状況のヒアリング──といった形で、自社の監査計画の項目に置き換えてみることが考えられる。
- 内部通報の「グループ設計」を確認する:子会社任せの通報窓口は匿名性の限界がある。例えば、親会社共通の外部窓口がグループ全社をカバーしているか、通報の利用状況が監査役等に定期報告されているか、12月施行の改正公益通報者保護法への対応(体制整備義務・通報者探索の禁止等)が済んでいるか──の3点を、年内に一度確認しておきたい。
- トップに起因する予兆こそ監査役等の出番と心得る:文書は、経営トップにコンプライアンス軽視の姿勢が認められる場合には監査役等が対峙し是正を求める姿勢を求めている。現実には容易でないからこそ、社外監査役等との初期段階からの情報共有や、会計監査人・内部監査との連携で「一人で抱えない」体制を平時から作っておくことが、いざという時の行動を可能にする。
なお、日本監査役協会からは8月に「中小規模会社の『監査役監査基準』の手引書(第3版)」も9年ぶりの改定で公表されている。体制の限られた会社の監査実務を確認する際の参考になる。
出典
- 日本監査役協会 会計委員会「監査役等による会計不正への対応──予兆の早期把握と予防の徹底」(2026年7月28日)https://www.kansa.or.jp/wp-content/uploads/2026/07/el20260728.pdf
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)

