車載用などのコネクタを製造するイリソ電子工業(東証プライム、6908)は9月30日、海外子会社での不適切な金銭の交付などを調べた第三者委員会の報告を受け、鈴木仁代表取締役社長が辞任したと発表した。あわせて過年度の有価証券報告書などの訂正報告書を提出し、内部統制報告書に「開示すべき重要な不備」(財務報告の信頼性に重大な影響を及ぼし得る内部統制の欠陥)を記載した。

何が起きたか
- 同社は2026年2月、海外子会社で、労務紛争への対応に関連した不適切な金銭交付の疑義が生じたとして調査委員会を設置した。調査の過程で会計処理と品質検査に関する問題の疑いが見つかり、4月27日に第三者委員会を設置して調査範囲を広げた。
- 9月28日に受領した調査報告書(9月29日に公表版を開示)は、主な事実として、海外子会社2社での不適切な金銭交付、同社の品質管理・品質保証上の問題、海外子会社の仮決算時における未確定の決算数値の使用、海外子会社での売上の前倒し計上を挙げた。公表版は、対象の国を「A国」「B国」と伏せている。
- 金銭交付のうち1社分は、現地の労働紛争に関連して顧問弁護士に支払われた金銭の全部または一部が、裁判官への供与に充てられた可能性があるとの内容である。報告書は、供与に充てられた事実を確定的に認定するには至っていないとしている。別の海外子会社では、通関手続を円滑に進める目的で、税関職員などへの不適切な現金の支払が長期間続いていた。
- 同社は2022年3月期から2025年3月期の有価証券報告書などの訂正報告書を提出し、決算短信も訂正した。鈴木社長は「経営責任を明確にするため」9月30日付で辞任し、10月1日付で池田修一取締役専務執行役員が代表取締役社長執行役員に就いた。
- 10月1日には、9月30日付の訂正開示に記載した影響額や増減率に誤りがあったとして、一部訂正を開示した。数値を参照する場合は訂正後の開示を確認する必要がある。
ポイント
同社が示した重要な不備は、統制環境、リスクの評価と対応、モニタリング、海外子会社の管理体制と情報の伝達、決算・財務報告プロセス、一部海外子会社の販売業務プロセスの6分野にわたる。統制環境では、取締役会と監査等委員会が重要な意思決定や内部統制上の問題を十分に監督できていなかったこと、役員の選任・評価で誠実性やコンプライアンス意識を担保する仕組みがなかったことを挙げた。
リスク評価では、外国公務員等への贈賄リスクについて、リスクの高い国・地域・取引形態・委託先を踏まえた具体的な評価をしていなかったと説明した。また、グローバルな内部通報制度は導入していたが、周知と運用が不十分で、海外子会社の問題を本社が早期に把握する経路として機能していなかったとしている。
実務への示唆
海外の子会社や買収した企業は、本社の目が届きにくく、ガバナンス上のリスクが高い。今回の開示は、個別の支出や売上計上にとどまらず、取締役会・監査等委員会の監督や役員の選任・評価まで不備として整理した。海外展開の企業にとって、個別の是正よりも、グループ全体を貫く枠組みの整備と、それを実際に回す監視・報告の体制がカギになる。
1. 海外を含むグループ・グローバルガバナンスの方針と枠組みを定める。 例えば、グローバルガバナンスの方針とガイドラインを策定し、子会社に共通する承認権限、運用方法、モニタリングの方法、子会社から本社への報告ルール(定期報告事項と、重大事象を即時に報告する基準)を一つの枠組みとして整備することが考えられる。海外の法人や買収した企業には、同じ枠組みを統合の初期から適用する。
2. リスク評価の対象を、贈賄にとどめず包括的にする。 贈賄リスクの評価は、リスクの高い地域や委託先から始める必要がある。ただし、海外拠点のリスクは贈賄に限らず、サプライチェーン上の人権問題をはじめとするESGリスクも含む。例えば、地域・委託先・取引形態ごとのリスク評価に、贈賄、人権、環境などの項目を加え、法務、経理、サステナビリティの各部門が関与する承認手順を設けることが考えられる。
3. 内部通報に頼らず、実効性のあるモニタリングと報告の体制を築き、定期的に見直す。 内部通報制度には、通報が上がらなければ機能しないという限界がある。カギは、通報とは別に、モニタリングと本社への報告をどう実効性のある形で築き、運用するかである。例えば、数年に一度、海外を含むグローバルガバナンスのあり方を棚卸しし、取締役会の実効性評価で現行のグループガバナンスの検証を取り上げる、または監査等委員会(監査役会)やリスクマネジメント委員会の年間の検証項目に入れることが考えられる。
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出典
- イリソ電子工業「第三者委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」(2026年9月28日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120260928541196.pdf
- イリソ電子工業「第三者委員会の調査報告書の公表に関するお知らせ」および調査報告書(公表版)(2026年9月29日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120260929542262.pdf
- イリソ電子工業「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備及び内部統制報告書の訂正報告書の提出に関するお知らせ」(2026年9月30日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120260930543311.pdf
- イリソ電子工業「代表取締役の異動に関するお知らせ」(2026年9月30日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120260930543139.pdf
- イリソ電子工業「(訂正)『過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出及び過年度の決算短信等の訂正に関するお知らせ』の一部訂正について」(2026年10月1日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120261001544700.pdf
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)

