人材サービスのUTグループ(東証プライム、2146)と、同じく人材サービスのヒューマンクリエイションホールディングス(東証グロース、7361、以下「HCH」)は10月15日、UTグループの元従業員が400百万円相当のQUOカードを不正に発注・受領していた事案を、それぞれ適時開示した。同じ事案を扱いながら、関与者の肩書、支払義務、業績への影響の3点で両社の記述は食い違っている。納品したHCHは全額を特別損失に計上して通期赤字の見通しに転じ、発注者が所属していたUTグループは「支払義務を負うものではない」とし、業績への影響は軽微とした。

何が起きたか
- UTグループの開示によると、子会社UTエイムに出向していた同社の元従業員が、UTエイムの社名を騙り、正当な権限に基づかずに400百万円相当のQUOカードを発注・受領した。会社は10月5日に取引先からの連絡で疑いを把握し、初動調査を経て、捜査機関への相談と刑事告訴に向けた協議を進めている。内部調査委員会を設置し、取引範囲の特定と原因分析を行う。
- HCHの開示によると、子会社コスモピアは2026年8月と9月に、受発注支援プラットフォームを介してUTエイムの従業員から購入代行の打診を受け、累計400百万円相当のQUOカードを調達して、指定されたUTエイムのオフィス宛てに発送した。9月30日の支払期日に入金がなく確認したところ、UTエイムから承認した取引ではないとの説明を受けた。
- HCHは最大400百万円が未回収となる可能性があるとして全額を特別損失に計上し、2026年9月期の親会社株主に帰属する当期純利益の予想を436百万円の黒字から184百万円の赤字に修正した。期末配当予想(1株45円)は据え置いた。UTエイムに対し、同種取引の有無について10月末を目途とする調査と報告を依頼し、損害賠償請求などの法的措置も含めて対応するとしている。
- UTグループは、HCHの開示が「取引先従業員」「UTエイムの従業員」と表記している点について当該人物は既に退職していると述べ、未回収額についてはUTエイムが支払義務を負うものではないとの立場で協議中とした。2027年3月期の連結業績への影響は「現時点では軽微」としている。
ポイント
両社の開示を並べると、同じ事実が別の言葉で語られている。HCHは「UTエイムの従業員」が「正式な取引であるかのように装った」と書き、UTグループは「元従業員」が「社名を騙って」行った「詐欺行為ないし背任行為」と書く。在籍の有無は、取引の時点で誰の権限が及んでいたかに関わり、支払義務の争点に直結する。両社とも相手方との協議中であることを明記しており、損失をどちらが負担するかは今後の協議または法的手続で決まる。
ガバナンスの論点は2つある。1つは納品側の与信管理で、HCHは再発防止策として、高額取引と換金性の高い商品の取引について、取引開始時と実行時の承認基準、与信管理、取引先の発注権限の確認手続を見直し、換金性の高い商品の取引は原則停止する方向で見直すとした。もう1つは、社名を騙られた側の管理で、UTグループは出向者の権限管理や発注の仕組みにどのような隙があったかを、内部調査委員会の結果で説明することになるとみられる。取引先の従業員による不正や、子会社・出向先での管理の空白は、2026年の不祥事事例でも繰り返し見られる(関連記事)。
実務への示唆
実務上のカギは、「相手先の社名と在籍」だけを確認して取引を始めていないか、という点にある。本件では、発注者が実在の会社に実際に在籍し、オフィスの住所を納品先に指定していたため、取引先はUTエイムとの取引と認識した。
- 換金性の高い商品の受注には、相手先の「発注権限」を確認する。HCHは発注権限の確認手続の見直しを再発防止策に挙げた。例えば、一定額以上の金券・ギフトカードの受注では、担当者の名刺や社用メールではなく、相手先の購買部門または決裁者への書面確認を条件にし、その記録を残すことが考えられる。
- 自社名を騙られた場合の対応を、事前に決めておく。UTグループは把握から10日で開示し、捜査機関への相談と内部調査委員会の設置を公表した。例えば、取引先から「自社の従業員との取引」について照会があった際の受付窓口と、権限の有無を即日確認する手順を定めておくことが考えられる。
- 当事者間で主張が分かれる事案は、自社の認識と相手方の主張を分けて開示する。両社の開示はいずれも相手方の説明を引用したうえで自社の立場を書いており、読み手は争点を把握できる。例えば、自社が損失を負担しない立場でも、相手方が主張する金額と争点を開示に含め、協議の結果が出た時点で続報を出すことが考えられる。
注
- 両社の開示は、関与した人物について氏名を公表していない。本記事も役職・属性のみで記載した。
- HCHの業績予想の修正は、同社「通期業績予想の修正、次期業績予想、及び特別損失の計上に関するお知らせ」(2026年10月15日)による。本件の特別損失以外の業績変動要因を含む。
出典
- UTグループ「当社グループの元従業員による不正行為について」(2026年10月15日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120261015551835.pdf
- ヒューマンクリエイションホールディングス「当社子会社における取引先従業員による不正な取引及び今後の対応に関するお知らせ」(2026年10月15日、東証TDnet) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120261014550478.pdf
- ヒューマンクリエイションホールディングス「通期業績予想の修正、次期業績予想、及び特別損失の計上に関するお知らせ」(2026年10月15日) https://www.release.tdnet.info/inbs/140120261014550482.pdf
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(ガバナンス・ダイジェスト編集部)
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