東京証券取引所(東証)は10月14日、市場区分の見直しに関するフォローアップ会議(第30回)で、2023年3月31日に全上場会社へ要請した「資本コストや株価を意識した経営」について、要請から4年目(2026年)の開示状況をまとめた資料を示した。プライム市場では94%が開示済みとなる一方、開示後1年以上内容を更新していない会社が16%あり、東証は取り組みの段階を「開示」から「実行・高度化」へ移すとしている(関連記事)。

何が起きたか
- 2025年9月から2026年8月の1年間で、プライム市場1,549社のうち1,451社(94%)が開示済みとなった。このうち1,153社が内容を更新し、44社が初めて開示した。254社(16%)は1年以上更新していない。未開示・検討中は98社である。
- スタンダード市場では1,555社のうち850社(55%)が開示済みで、未開示・検討中は705社ある。
- 2026年8月時点で、PBR1倍以上かつROE8%以上の会社の割合は、日本(TOPIX500、492社)が62%で、2022年7月の41%から21ポイント上がった。米国(S&P500、464社)は80%、欧州(STOXX600、593社)は74%である。
- 東証は2026年末から2027年初めを目途に、二つの資料を公表する。一つは、投資家アンケートで「取り組みの進展が見られる企業」として挙がった300社の中から事例を選んだ「持続的な取組み推進・ブラッシュアップに向けた事例集」で、開示済みの会社が取り組みを継続し、磨き上げるための参考資料である。もう一つは、開示に踏み出せていない会社と、あえて開示していない会社に向けた「開示の第一歩に向けたガイド」で、未開示のプライム98社・スタンダード705社への働きかけに使う。年内には取締役会事務局向けのセミナーも開く。
ポイント
4年目の数字は、開示の有無ではもう差がつかないことを示している。東証は、1年以内に更新または初回開示した会社の株価とPBR・ROEの改善が最も進んだとし、更新していない254社への働きかけを強める方針を示した。
国際比較では、PBR1倍以上かつROE8%以上の割合で日本は欧米に近づいたが、PBR2倍以上かつROE15%以上の割合は日本17%、米国52%、欧州39%で、日本企業はPBR1〜2倍・ROE8〜15%の帯に集中している。東証が機関投資家約120社と行った意見交換では、経営資源配分の実行と成長ストーリーの発信を求める声が多かった。東証が「次の焦点は取組みの実行と継続」とするのは、この帯からの移行には開示の改訂ではなく、資本の使い道の決定と実行が要るという投資家の見方を受けたものである。
実務への示唆
実務上のカギは、「更新」を開示文書の改訂ではなく、前回掲げた目標に対する実績と差異、それを受けた経営資源配分の見直しを取締役会で審議し、その結果を示す行為と捉え直すことにある。
- 更新の単位を「差異の説明」にする。1年以上更新していない会社の多くは、初回開示で掲げたROEや資本コストの目標が、その後の実績とどう違ったかを示していない。例えば、更新の冒頭に、前回開示の目標値、直近の実績、差異の要因、要因を受けて変えた資源配分(成長投資の前倒し、政策保有株式の縮減、事業の売却・撤退)を1枚にまとめる形が考えられる。計画どおり進んでいる場合も、その旨と次の判断時期を示せば、更新停止とは受け取られない。
- PBR1〜2倍・ROE8〜15%の帯からの移行は、目標の引き上げではなく資本の使い道で示す。投資家が求めているのは経営資源配分の実行である。例えば、手元資金と営業キャッシュフローの配分(成長投資・研究開発・M&A・株主還元)を金額と時期で示し、事業ポートフォリオの入れ替えの判断基準(資本コストを下回る事業の扱い)を明記することが考えられる。ROE15%の目標を掲げるより、資本コストを下回る事業への対処を決めることのほうが、投資家の評価につながる。
- 開示していない会社は、「開示しない理由」の説明が次の論点になる。東証は未開示の会社をプライム98社・スタンダード705社と数え、ガイドを作って働きかけを強める。例えば、未上場会社並みの株主構成や規模を理由に開示を見送っている会社でも、取締役会で開示の要否を審議し、その判断理由を株主に説明できるようにしておくことが考えられる。ガイドの公表後は、「検討中」のままでいることが投資家との対話で説明を求められる状態になる。
出典
- 東京証券取引所「『資本コストや株価を意識した経営』に関する4年目の現状と今後の取組みについて」(市場区分の見直しに関するフォローアップ会議
第30回 資料1、2026年10月14日)
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/t13vrt000002gpul.pdf - 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)、「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」(2026年4月28日)
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/02.html - 関連記事:資本コスト経営の開示、プライムは94%に/東証の2つのアンケートが映す対話の現在地
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)
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