特別注意銘柄に指定中のニデック(東証プライム、6594)は9月29日、岸田光哉社長の辞任と、戒田理夫専務執行役員(CTO)の新社長就任を発表した。前日にダイヤモンド・オンラインが報じた「解任決議」に対し、会社は「辞意が示され、取締役会がこれを受理した」と説明している。翌30日に開示された2026年3月期決算は、6,321億円の減損損失を含む5,646億円の最終赤字となり、監査法人は有価証券報告書に対して2期連続で「意見不表明」とした。10月末には内部管理体制確認書の提出期限も迫る。危機下のCEO交代を会社がどのような手続で行ったかは、他の上場企業の実務にも参考となる。
何が起きたか
- 9月29日、ニデックは岸田光哉代表取締役社長執行役員が同日付で辞任し、同日の臨時取締役会で戒田理夫氏を社長執行役員(CEO兼CTO)に、南井正之取締役常務執行役員(CCO兼CHRO)を代表取締役に選定したと発表した。戒田氏の取締役選任は臨時株主総会で決議予定である。
- 辞任の経緯について会社は、2026年3月期決算と過年度の訂正決算の過程で旧執行体制下の行為を再評価する中で、岸田氏に「財務報告に関し必ずしも適切とは言いかねる言動もあったことが確認された」とし、「新しいガバナンス体制の下で、当社の経営者には従来よりも高いレベルでの倫理観が期待されている」ことを踏まえて取締役会で経営体制を議論した結果、同氏から辞意が示されたと説明している。
- 新社長の選定は、独立社外取締役で構成される指名委員会での審議を経て取締役会で決議された。指名委員会は後継者計画の一環として、第三者機関によるアセスメントと指名委員による面談を実施していたとしている。
- 同日、会社は2026年3月期第3四半期および通期の決算短信を9月30日に開示すると発表した。前日28日の東京市場では、解任と1兆円規模の減損検討の報道を受けて株価が一時ストップ安となっていた。
- 日本経済新聞は29日夜、同社が電子部品子会社ニデックコンポーネンツ(旧コパル電子)を米投資会社The Carlyle Group(以下「カーライル」)に1,000億円超で売却する方針で最終交渉に入ったと報じた。主要子会社の売却は初めてとされる。

ポイント
今回の交代は、2025年6月の有価証券報告書の提出期限延期に始まり、第三者委員会の調査、10月の特別注意銘柄指定、改善計画の提出、2026年3月の役員刷新と続いてきた一連の再生プロセスの、仕上げの局面で起きたものである。旧体制下の言動が訂正決算の過程で改めて問われ、再生を担ってきた社長自身の交代に至った点に、この事案の重さがある。なお、同社は監査等委員会設置会社であり、指名委員会は法定の委員会ではなく、取締役会の諮問機関として設けた任意の委員会である(委員は社外取締役5名)。
注目されるのは、会社が公表文で選定手続を具体的に示したことだ。独立社外取締役で構成する指名委員会の審議、第三者機関によるアセスメント、指名委員による面談という記述は、2026年7月改訂のコーポレートガバナンス・コードが求めるCEOの選解任手続の客観性・適時性・透明性と、後継者計画への取締役会の主体的関与に沿った説明になっている。危機下の交代を「手続の見える形」で行えたかどうかは、10月末に提出する内部管理体制確認書の説得力にも関わる。
同社が抱える課題は会計不正にとどまらない。9月4日には品質不適切行為に関する調査報告書が公表され、305拠点で844件の不適切行為が認定された。報告書は、規模拡大に見合う経営体制の整備の遅れやM&A後の移行管理の不十分さを構造的な原因に挙げている。会社が子会社売却の検討を認めたことで、M&Aで拡大してきた事業構成の見直しが再生の柱に加わる可能性が出てきた。30日の決算開示で示されたのは、減損の規模にとどまらない。監査法人が意見を表明しない理由として、不適切な会計処理に関与した役職員の一部が財務報告プロセスで責任ある立場を担い、人事的な是正措置が完了していないことを挙げた点は、10月末の確認書で東証が審査する「運用」の実態に直結する。
実務への示唆
- 緊急時のCEO交代手続を平時に文書化しておく:今回の公表文は、指名委員会の審議、第三者アセスメント、面談という手順を明示した点で一つの参考例になる。例えば、自社の後継者計画に「緊急時に誰がどの手順で候補を選び、どこまでを公表するか」を書き込んでおくことが考えられる。有事にゼロから設計するのは現実的でない。
- 旧体制の言動の「再評価」を訂正決算の工程に組み込む視点を持つ:会社は訂正決算の過程で旧体制下の行為を再評価し、その結果を人事に反映させた。不祥事対応中の会社では、訂正作業を数字の修正で終わらせず、関与した役職員の言動を監査委員会や法務が確認する工程を設けておくのも一案だ。
- 特別注意銘柄指定中のトップ交代は「運用の連続性」の説明とセットで:東証の審査は内部管理体制の整備と運用を見る。改善計画の推進責任者が代わる場合、運用の継続性をどう説明するかを、例えば経営企画・法務・内部監査が事前に整理しておくことが考えられる。
関連記事:ニデック、品質不適切行為844件を認定──会計不正に続く調査報告書が示した「成長優先」の代償
出典
- ニデック「代表取締役社長執行役員の辞任および新社長執行役員等の選定に関するお知らせ」(2026年9月29日) https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0929-01/260929-01jp.pdf
- ニデック「2026年3月期第3四半期決算短信及び 2026年3月期決算短信の開示予定日の決定に関するお知らせ」(2026年9月29日) https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0929-02/260929-02jp.pdf
- ニデック「当社に関する一部報道について」(2026年9月28日) https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0928-01/260928-01jp.pdf
- ニデック「事案の概要」 https://www.nidec.com/jp/corporate/internal-control-improvement/overview/
- ニデック「調査報告書の公表及び当社の対応に関するお知らせ」(2026年9月4日) https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/0904-01/260904-01jp.pdf
- 日本取引所グループ「特別注意銘柄・上場契約違約金等」 https://www.jpx.co.jp/equities/listing/measure/index.html
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」(2026年7月21日) https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf
- 日本経済新聞「ニデックが旧コパル電子売却、M&A路線転換 カーライルに1000億円超で」(2026年9月29日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF2541K0V20C26A8000000/
- ニデック「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年9月30日) https://www.nidec.com/…/260930-10jpr.pdf
- ニデック「2026年3月期有価証券報告書に係る監査報告書の意見不表明及び、第3四半期決算短信のレビュー結論不表明並びに内部統制監査報告書の意見不表明に関するお知らせ」(2026年9月30日) https://www.nidec.com/…/260930-07jp.pdf
- ニデック「非金融資産の減損損失、契約損失引当金、仕入先からの求償請求に係る和解に伴う債務及び特別調査費用等の計上に関するお知らせ」(2026年9月30日) https://www.nidec.com/…/260930-06jp.pdf
- ニデック「財務報告に係る内部統制の開示すべき重要な不備及び内部統制報告書の評価結果不表明に関するお知らせ」(2026年9月30日) https://www.nidec.com/…/260930-08jp.pdf
- ニデック「当社に関する一部報道について」(2026年9月30日) https://www.nidec.com/…/260930-01jp.pdf
- ニデック「再生に向けての変革」(2026年10月1日) https://www.nidec.com/files/user/www-nidec-com/corporate/news/2026/1001-01/261001-01jp.pdf
追記
- 【9月30日追記】同日16時30分、会社は2026年3月期決算短信と有価証券報告書を開示した。売上収益2兆7,087億円に対し営業損失5,190億円、親会社所有者帰属の当期損失は5,646億円。非金融資産の減損損失6,321億円(ACIMセグメント2,988億円、グループ会社1,897億円、MOEN1,163億円など)に加え、契約損失引当金225億円、仕入先との和解に伴う債務42億円、特別調査費用等305億円を計上した。親会社所有者帰属持分は7,942億円(前期1兆2,398億円)、同比率は25.6%に低下し、通期無配とした。2025年3月期の連結財務諸表は修正再表示された。
- 【9月30日追記】PwC Japan有限責任監査法人は、2026年3月期の有価証券報告書に係る監査報告書、第3四半期決算短信のレビュー、内部統制監査報告書のいずれについても意見(結論)を表明しなかった。理由として、不適切な会計処理等に関与した役職員の一部が財務報告プロセスで責任ある立場を担当しており人事的是正措置が完了していないこと、経営者陳述の信頼性に重要な影響が及んでいること、減損損失の計上額について十分かつ適切な監査証拠を入手できていないことを挙げている。会社も内部統制報告書で全社的内部統制、決算・財務報告プロセス、業務プロセスに開示すべき重要な不備があるとし、評価結果を表明していない。
- 【9月30日追記】会社は同日朝、子会社ニデックコンポーネンツの売却報道について「売却を検討していることは事実ですが、現時点で当社として決定した事実はありません」と公表した。決算短信には子会社売却に関する記載はない。
- 【10月1日追記】会社は10月1日、戒田社長、南井常務、監査法人PwC Japanの幹部が同席する記者会見を開き、同時に説明資料「再生に向けての変革」を公表した。資料では、監査意見の取得に向けて「10月中に残課題を解消する」とし、不適切な会計処理に関与した役職員を財務報告の責任ある立場から外す人事上の是正を進めるとしている。あわせて、2021年3月期から2025年3月期の修正再表示により2025年3月期末の純資産が4,769億円減少したこと、財務報告に係る内部統制を「有効ではない」と評価し6項目の重要な不備と5項目の再発防止策を示したこと、2027年3月期の業績見通し(売上高2兆8,000億円、営業利益2,000億円)を公表した。報道によれば、戒田社長は会見で上場維持を「使命」と述べ、監査法人に虚偽の説明をした役職員は20人とされる(産経新聞)。
(ガバナンス・ダイジェスト編集部)

