米国のAI(人工知能)開発会社Anthropic, PBC(以下「アンソロピック」。デラウェア州法上の公益法人)は2026年10月26日、新規株式公開(IPO)のための登録届出書(Form S-1)を米証券取引委員会(SEC)に提出した。ナスダック・グローバル・セレクト・マーケットにClass A普通株式を上場する計画で、予定ティッカーは「ANT」である。届出書は、創業者に議決権の過半を、独立の信託に取締役の過半の選任権を与える設計を示し、Class Aの株主が議決権で経営を左右しにくいことを明記した(注1)。

何が起きたか
- 創業者7名が構成員の有限責任会社(以下「創業者LLC」)に、Class F普通株式を1株発行する。この1株が、株主総会に諮る事項の議決権の50.1%を持つ。
- Class T普通株式は、財務上の利害を持たない5名の受託者が運営する信託(Long-Term Benefit Trust、以下「LTBT」)だけが持つ。LTBTはClass T取締役を選任・解任でき、Class Tに経済的な権利はない。
- 取締役会は7名の枠で、4名がClass T取締役(うち1名は空席)、3名をClass FとClass Aの株主が選ぶ。LTBTに日常の経営や戦略の決定権はないとされる。
- ナスダックの規則上の「支配会社」に当たるが、例外に頼るのは指名・ガバナンス委員会に限る方針で、現在の取締役6名のうち4名を独立取締役と判断した。
ポイント
届出書は、Class Aの株主が議決の結果や取締役の選任に通常は影響できないと記す。例外は創業者の過半数が議決権の行使方法で合意できない場合で、その場合はClass Fの議決権をClass Aの投票の割合に合わせて行使する。
一方、この集中を固定しない手当てもある。Class Fは、現役の創業者が3名を下回る状態が連続90日続くと、終了に向けた移行に入る。LTBTの権限の変更には、受託者が賛成するなら取締役会と受託者のそれぞれ80%、反対するなら創業者・従業員株主・Class A株主の三者の承認を要する(注2)。Class T取締役1名の選任・解任には指名・ガバナンス委員会の同意が必要で、同意がなければ従業員向けのClass E株式の投票に付される。
株主が議決権で働きかける道が狭い分、取締役が何を基準に判断するかの開示が、投資家への説明の中心になる(編集部の考え)。日本でも東京証券取引所は2023年12月26日、支配株主や親会社を持つ上場会社に、少数株主の保護に関する情報開示の充実を促す資料を公表している(新たな開示義務ではない)。
実務への示唆
実務上のカギは、議決権の集中の開示に、理由だけでなく、終わる条件と、集中する側を縛る手続まで含まれているかである。
- 集中が終わる条件と変更の手続を書く。例えば、創業家や親会社が議決権の過半を持つ会社が、承継や持株比率の低下で何が変わるか、定款や契約の変更にどの株主の同意が要るかを、コーポレート・ガバナンス報告書の少数株主保護の欄に書くことが考えられる。アンソロピックは、割合まで数値で示した。
- 独立性の確認と、規則の例外に頼る範囲を分けて示す。例えば、独立社外取締役の人数に加え、指名・報酬委員会の構成と、支配株主との取引を審議する場を併記することが考えられる。
- 会社の目的の達成を、取締役会がどう測るかを決めておく。同社は社外の基準に照らす義務を負わず、定性的な基準を取締役会が定め、少なくとも2年ごとに株主へ報告するとする。理念や社会的な目的を掲げる日本の会社も、取締役会が見る指標を先に決めておくことが考えられる。
注
- 予備目論見書であり、公募価格、株数、調達額、創業者の議決権の合計割合は空欄である。今後の修正で変わりうる。
- 受託者が反対する場合の承認は、上場から3年以内は創業者全員の合意、従業員株主と、Class A株主それぞれの過半数が必要で、その後は創業者の3分の2以上、従業員株主の75%、Class A株主の過半数である(3年以内もこの組合せを選べる)。Class Fが残らない場合は、Class A株主の85%となる。
出典
- Anthropic, PBC「Form S-1 Registration Statement」(SEC提出:2026年10月26日) https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/2130357/000162828026067168/anthropicpbc-sx1.htm
- 東京証券取引所「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」資料(2023年12月26日) https://www.jpx.co.jp/news/1020/20231226-01.html
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(ガバナンス・ダイジェスト編集部)
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